不可避なビットコイン

前書き
ビットコインを理解するのは難しい。

cryptographile
Nov 20, 2020

このツイートを読んで、この発明がどれだけ重要で画期的かを理解できる人は恐らく既にビットコインを所有しているはずだ。本記事のターゲットは貴方達ではない。世界経済が崩壊しつつある今、次世代の金融システムの中核となりうる新たな資産クラスに我々一般人が機関投資家より先に投資可能な今、ビットコインに対して懐疑的な人にこそ読んでほしい。

自分がそうだったように、今ビットコインを理解する努力を怠った人は必ず将来後悔すると思っている。

勉強するきっかけになってくれたらうれしい。
cryptographile 2020年10月

ビットコイン誕生

2001年、米銀行によって証券化されたサブプライムローン(通常の住宅ローンの審査には通らないような信用情報の低い人向けのローン)が世界中の投資家に販売された。なぜ世界中の「賢い人たち」がこんなものに騙されたのか理解不能なのだが、世界的ヒット商品となりバブルを形成した。この証券の根底にあるのは返済能力の低い人間が加入する保険なので、当然のように不良債権化し、バブルは2008年に世界金融危機という形で崩壊した。世界中の中央銀行はこの未曽有の金融危機から脱すべく、大規模な量的金融緩和政策(量的緩和策)を実行した(1)

そんな中、2008年10月にSatoshi Nakamotoと名乗る人物が「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」と題された論文を投稿した。ビットコインホワイトペーパーである。

基軸通貨

基軸通貨とは世界で最も取引に利用され、各国法定通貨の価値の基準として用いられる通貨である。現在の基軸通貨が米ドルであることに議論の余地はないだろう。では100年前も同じだったのだろうか?

実は世界の基軸通貨はおよそ100年の周期で変わってきた(2)。100年前はイギリス、その前はフランスと、その時点で最も経済力や軍事力が高い国の通貨が基軸通貨となる傾向にある。それは他国に対する影響力にも直結していて、基軸通貨の座を獲得した通貨は自国の経済政策を通じて世界経済を大きく左右することが可能となる。

基軸通貨に周期性があるのは、影響力が大き過ぎる国や通貨に対して他国が反発するからである。転換期に必ず戦争が起こるのは偶然ではない。

1914年、米国の経済は当時基軸通貨を発行していたイギリスを抜き世界一となり、1920年頃には米ドルが実質世界の基軸通貨となった。第二次世界大戦後の1944年には米国主導で米ドルを基軸とした固定為替相場制「ブレトン・ウッズ協定」が締結され、正式に米ドルが基軸通貨となった。本条約の目的は金1オンス(28グラム)を35米ドルと定め各国通貨との交換比率(為替相場)を一定に保つことによって自由貿易を発展させ、世界経済を安定させることであった。

ここで注目すべきなのは金との兌換性である。当時の米ドルは金の兌換紙幣であり、財務省に持って行けば35ドルを28グラムの金と交換出来た。これを金本位制と呼ぶ。ここから僅か30年で米ドルは大きく変わることになる。

金と希少性

金がSafe Haven Asset(安全資産)と呼ばれる理由をご存知だろうか?

金の価値の裏付けは宝飾品や、電子機器の部品としての工業的用途からくる需要によるものだと思われがちだが実は違う。金の価値はその腐敗しない特性と生産の難易度(希少性)に由来する。最初はおそらくその美しさから宝飾品としての価値が付き、売買されたのだと推測される。しかしそれだけでは同じような輝きを放つ金属が自由に作れる現代でも金が重宝される理由については説明できない。金が今も装飾品として選ばれるのは、その価値を万人が知っているからであり、富を誇示しやすいからだと考える。金の工業的用途としての需要は総生産量のおよそ15%程度である。銀のそれは80%を超える。つまり便利だから価値が高いわけではないのだ(3)

地球上の全てのモノの価値は需要と供給のバランスからなる。供給に対して需要が上がれば、価値が上がる。価値が上がれば生産量が増え、供給過多となり、価値は下がる。金の採掘速度(インフレ率)はおよそ1.6%であり、他の貴金属に比べて圧倒的に低い(4) 。採掘コストと難易度の高さが主な理由である。現在までに地中から採掘された金の総量は19万トン、僅か国際基準プール4杯分だ。金の需要がどれだけ上がっても、供給量には限界があるため、価格が上がることでしかバランスを保てない。値段が上がることで、さらに需要が増え、上昇スパイラルへとつながる。

金が5000年以上人類の価値の保存媒体として君臨し続けたのには、腐敗しない特性を持つが故の世代を超えた価値の伝承と、生産が困難であるが故の価値の上昇スパイラルが存在するからである。

法定通貨

法定通貨の価値を裏付けるものとは一体何なのだろう。

1944年の米ドルは金兌換紙幣だったので分かりやすかったのだが、1971年にはこの兌換制度を廃止している(ニクソンショック)。

1928年の10ドル札と1990年の10ドル札を比べると、見た目はそっくりだが、全く別物であることが分かる。

1928:
(1) Redeemable in gold on demand at the United States Treasury or in gold or lawful money at any Federal Reserve Bank.
(2) Will Pay to the Bearer on Demand Ten Dollars

1990:
(1) This note is legal tender for all debts, public and private
(2) Ten Dollars

1928年の10ドル札にはハッキリと米国財務省に持って行けば金と交換可能であることが記載されている(金兌換紙幣)。(2)にあるBearerとは「所有者」であり、希望があればいつでも金と交換可能であることが記されている(Bearer Assetとも呼ばれる)。それに対して1990年の10ドル札には金との交換について一切記載がない。1971年に米ドルは価値の裏付けを失ったのである。事実上のデフォルトだ。券面のデザインを大きく変えなかったためか、多くの国民はその仕様変更に気づかず、未だに金に裏付けられていると信じている人もいる。僕から言わせてもらうとこれは詐欺だ。いつの間にか米ドルは希少性が担保された富の保存媒体が裏付けるBearer Assetから、紙切れに変わった。強いて言うなら裏付けるものは米国の国力(経済力、軍事力、政治力)である。

日本でも金本位制を採用していた時期がある。1897年、貨幣法の制定で金1g=1.3円と定められ、1931年まで続いた。その後1944年ブレトン・ウッズ協定締結時には金1g=405円とされているので、僅か13年で円の価値は金建で1/300になってしまったことを意味する。ちなみに2020年10月現在、金の価格は1g=7000円なので金本位制の中止から90年で日本円の価値は金建で1/5400(0.02%)まで暴落した。

100円で買える金の量の推移/g (対数)

量的金融緩和政策とマイナス金利

重要なのは「価値」と「価格」を区別することである。

「価格」とは法定通貨建ての値段であり、必ずしもモノの「価値」を表す尺度ではない。モノの価値を一定とすると、「物価上昇」とは貨幣(法定通貨)価値の下落に由来するものだということに気づかされる。前述の金の価格推移でも分かるように、日本円は1931年から2020年の90年間で価値が金換算で1/5400になっている。

分かり易い例が最低賃金だ。

最低賃金

日本の最低賃金は1978年に時給315円だったのに対して、2020年は902円だ(5)。最低賃金とは国が定める国民一人の労働1時間分の価値の指標である。1978年の日本人の労働1時間に比べて現代の日本人の労働1時間の方が3倍も高いことに違和感を覚えるのは僕だけだろうか?日本人の労働1時間の価値を今も昔も同等とするのであれば、その対価である報酬、つまり円の価値が下がっていることに気づくだろう。

モノの価値は需要と供給の絶妙なバランスで決まる(6)。需要が一定であるにも関わらず、供給が増えれば、価値は下がる。これは法定通貨であっても同じであり、無尽蔵に発行され市場に投下されれば当然価値は下がる。通貨膨張による物価上昇(インフレ)は通貨の価値(購買力)の低下と同義だ。

日本は1986年から1991年の5年間でバブルを経験した。株式や不動産を中心に資産価格が暴騰し国中がお金で溢れかえった。人口が増えたわけでも、国民一人一人の生産性が増えたわけでもないのに、資産の名目値が爆発的に上昇。その裏には法定通貨の大量発行があった。

世界的にインフレは年2%が適正とされているが、本当にそうなのだろうか?

本来モノの価値は技術革新による効率化に伴って下がるのが自然ではないだろうか?

日本はこの曖昧な目標を達成するために量的緩和策の名のもと大量の紙幣を発行している。1980年に200兆円だったM2マネーサプライ(現金+預金)は、2020年には1100兆円まで膨れ上がった(7)。40年間で国内に流通する「円」の量が5倍になったのだ。最低賃金が3倍になっても貧困が減らないのは、法定通貨の価値が1/5になっているからではなかろうか。

M2マネーサプライ/Billion JPY

量的緩和策とは「経済の活性化」を目的とした中央銀行と政府による通貨供給量の増加だが、国内に流通する円の総量(分母)を増やすことによって個の預貯金の価値を下げる隠れた税金でもある。2020年、コロナショック以降行われた大規模な量的緩和策により、経済活動の著しい低下とは裏腹に株価が不自然に上昇したのは当然なのである。株を保有している一部の富裕層はこれを良しとするだろう。国民の預貯金の価値が暴落していることについては誰も触れない。

2016年、日本の中央銀行はマイナス金利を導入した。インフレという隠れた税金だけでは飽き足らず、将来に備える堅実な人間にペナルティを科す国に成り下がってしまった。マイホームローンは35年が当たり前になり、人々は人生の大半を借金の返済に追われるようになった。貯金が徐々に国に掠め取られる状況では当然だ。借金をしている方が「お金持ち」になれる。無責任な金融政策を長期間維持するのは不可能だ。いつか終わりを迎えるだろう。

Gold2.0

法定通貨を銀行に預けて放置するのは危険だ。

希少性があり、政府のお偉いさんによって過剰発行されない資産で富を保存した方が圧倒的に利口だ。

まず株、不動産、金の3つが浮かぶと思う。

株は会社の生産力(利益)とインフレの両方の恩恵を受ける。ただリスクとして会社の倒産や新株発行による価値の希釈があげられる。結局は会社の中にいる人間の判断に大きく左右されるのだ。これは中央銀行と政府を信用することと大差ない。また日本株は日本人以外にはあまり魅力がなく、日本が国として衰退するのであれば同じ運命を辿るだろう。

不動産、特に都内の一等地は株以上の価格上昇が期待できる。有限であり希少性が高いからだ。ただ、自然災害と人口減少による需要低下というリスクがある。株同様、日本の土地は日本人(と一部の独裁国家の住民)にしか需要がない。

金は先にも述べたように、年間の採掘量がある程度予測可能で、希少性も担保されている。5000年以上の歴史があり、世界中で価値が認められている。値段のわりに小さく、ある程度の量なら持ち運び可能である。何よりも、金本位制が終わった今も世界中の中央銀行が大量の金を貯蔵している事実が、法定通貨よりも富の保存媒体として優れていることを証明している(8,9,10)。

金の弱点はその保管の難しさにある。現物である以上、没収される危険性がある。

1934年、米国で金準備法というとんでもない法律が制定された。1929年に起きた株価大暴落・世界恐慌で大勢のアメリカ人がドル紙幣を金と交換しようとした際、米国政府は米ドルの金との兌換性を一時中止し、財務省を唯一の合法的な金保有者とした(Gold Reserve Act)。米国民は日本で起きた1588年の刀狩や1941年の金属類回収令のように政府に金を奪われたのである。これが金の最大の弱点である。さらに、地中に埋蔵された金の総量は不明であり、希少性は採掘難易度に依存する(相対的希少性)点も忘れてはいけない。

このように株、不動産、金には一長一短がある。これらの短所を克服しているのが、ビットコインなのである。

ビットコインとは:
耐火、防水、耐震性のある暗号化された世界最強の金庫である。
いつでも、どこでも開けられて、入出金は自由。
物理的鍵を持ち歩く必要はなく、手ぶらで大金を移動させることも可能。
インフレ耐性、検閲耐性、没収できない特性を持つ非中央集権型資産。
世界中で価値が認識されつつあり、富の保存媒体として重要な特徴を兼ね備えた人類初の資産である。

・暗号化された金庫は誕生してから一度も破られていない。
・秘密鍵(ビットコインの所有権証明)を持つ人間は世界中のどこからでも24時間アクセス可能。
・総供給量2100万枚という絶対的希少性が担保されている。
・インフレ率が予め定められていて、採掘難易度(新規発行されるビットコインを入手するために解かなければならない数学問題の難易度)が需要に応じて自動的に調整される。
・政府のような発行体となる中央組織がないためインフレの心配とは無縁である。
・銀行のような取引仲介者に検閲を受けることも、資産を凍結、没収されることもない。
・秘密鍵を暗記することで、億単位の資産を秘密裏に運ぶことが可能。
・腐敗しない。

世界中の中央銀行が競うように量的緩和策を実行している今、人々は正確に物の価値を測る術を失ってしまった。ビットコインとは絶対的希少性が担保された、人による改変が不可能な新たな資産クラスである。価値の尺度として次世代の金融システムで活躍する可能性を秘めている。

ビットコインの唯一の偶然は最初に市場で価値が付いた時である。
それ以外は当然であり、必然なのだ。

不可欠なビットコインマキシマリスト」に続く

謝辞:Teruko Nerikiさん、ドラフトのレビューにご協力いただき誠にありがとうございました。
イラスト:いらすとやJason Benjamin

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cryptographile

Bitcoin Standard Advocate. ビットコイン信者。Twitter: @cryptographile